「本を守ろうとする猫の話」
夏川 草介 著
この本を書店で見かけたとき、「あ、これだ」と思って購入した一冊。
装丁が可愛らしくて、思わず手に取ってしまった感じです(笑)
とはいえ、これまでも「タイトル買い」とか「装丁買い」で外れたことがあまりないので、あらすじとか書き出しすら読まずに買っちゃいました。
まずは、Amazonの商品紹介ページより、
「お前は、ただの物知りになりたいのか?」
夏木林太郎は、一介の高校生である。夏木書店を営む祖父と二人暮らしをしてきた。生活が一変したのは、祖父が突然亡くなってからだ。面識のなかった伯母に引き取られることになり本の整理をしていた林太郎は、書棚の奥で人間の言葉を話すトラネコと出会う。トラネコは、本を守るため林太郎の力を借りたいのだという。
痛烈痛快! センス・オブ・ワンダーに満ちた夏川版『銀河鉄道の夜』!(Amazonの商品紹介ページより引用しています)
<あらすじ>
主人公の林太郎は、祖父と二人で暮している普通の高校生。
趣味は読書で、古典にも詳しいちょっとマニアックな読書家。
祖父は古本屋を営んでいるこれまた読書家で、かなり珍しい古書も取り扱っているおかげで根強い固定客もちらほらと。
そんな素敵な本に囲まれる私生活を送る林太郎だが、ある時祖父が突然なくなってしまう。
身寄りのない林太郎は、これまであったこともない伯母に引き取られることになるのだが、その前に本屋の本を整理することとなった。
学校をサボって店番をし、本の整理を進めていると、ある時突然店の中にトラネコが現れる。
しかもそのトラネコ、言葉を話すのだ。
「本を守るために手伝ってくれないか」
トラネコの申し出に、林太郎はあまり乗り気ではないが、本を守るためならば・・・と手伝いに行くことに。
どうやら書店の奥の空間から、別世界へと繋がっているらしく、本にまつわる不思議な世界で「本を守る活動」の手伝いをするようだ。
合計4つの不思議な世界で、
本を閉じ込める
本を切りきざむ
本を売りさばく
本についてどう考えるのか
という4つの問題に直面し、それらを解決しなければならなくなる。
本は保存しておくべきか否か 「本を閉じ込める」
最初の不思議な世界では、
本をひたすら読み続け、その圧倒的な量の本をショーケースに飾って閉じ込めている人物
に出会う。
彼曰く、本は読めば読むだけ偉くなれるし、知的になれる。
読んだ本を飾っていることで、自分の知識量が増えていくことが視覚的にわかる。
ということなのだそうだ。
このエピソードでは、本をどのようなものとして捉えているかを考えさせられました。
本を読んで書棚にとっておく人、本を読んだらすぐに処分するか売ってしまう人、本を読んだ数を他人に報告して知的であることを鼓舞する人など、
本に対するイメージのようなものがあると思います。
どれが正しいということはありませんが、本をたくさん読んだから偉いとか、本はとっておくことで知識を鼓舞できるとか、必ずしも正しいとは言えません。
もちろん、たくさん本を読めば知識が身につくとは思いますが、「読んだだけ」ではダメですよね。
読んだ本の内容を実生活に活かしたり、適度に復習したりすることが重要です。
また、自己顕示欲で本を保存することも惜しいような気がします。
他人を自宅に招いて、大量にある本を見せびらかして知識があることを押し付けるのは寂しい気がします。
とはいえ、私も本を保存しておくタイプ。
昔読んだ本をいつか読み直したくなるかもしれないし、誰かに紹介することもできるし、こうしてブログを書く際の資料にもなります。
何より、たくさんの本がある空間が好きなので、せっかくなら自分が一度読んだ本をずらっと並べた部屋を作りたいと思って、保存しています。
このように改めて考えるきっかけになったのも、「本を閉じ込める」というエピソードがあってこそでした。
本は重要な箇所のみで簡略化されるべきか 「本を切りきざむ」
二つ目の不思議な世界では、
「本は一つの文章や言葉だけで表現できる」
といい、ひたすら本を要約してはその部分だけを切り取り続けるという人物と出会う。
一冊の本には不要な部分が多すぎる。
だからこそ、私が読みやすく要約して切り刻んでいるのだ。
一冊を一つの言葉に要約する。
これこそ、ライフワークなのだ。
このエピソードでは、本の内容に対して求める姿勢を考えさせられました。
小説では要約することは難しいですが、自己啓発書やビジネス本ではある程度要約して重要な言葉や文章だけをピックアップすることができます。
本当に必要なところだけを切り出して、実生活に役立てることができれば、それこそ大量の本をあっという間に読み切れるかもしれません。
ある程度理想をついているなとは思いますが、実際はどうでしょうか。
一冊の本にはストーリーがあります。
勉強法についてまとめた本も、最初は著者がどうやって勉強に成功したのかについて簡単なストーリーがあって、それから勉強をする前のマインドセット、そして勉強法の解説、アフターフォロー、まとめ、といった流れがあったりしますよね。
要約してしまうと、勉強法の部分だけを書いてしまうことになるのですが、それだと苦労話から成功に至るまでの流れでやる気が湧いてくることもないですし、勉強する動機について考え直すこともないですし、勉強した後のフォロー方法などもわからないままです。
一冊通してその本の価値が得られるものだと思います。
むしろ、一回読んで、二回目以降を読むときは要約でいいのではないでしょうか。
最初に読んだ時にドッグイヤー(角を折る)したり、付箋を貼ったりしておいて、二回目はその部分だけをさっと読み直す。
一回目に自分が大切だと思ったところ、つまり要約部分だけを読むだけなので、時間も短縮できます。
このように、しっかり読む熟読と、さっと読み切る要約は使い分けることが便利なんだなと考えるきっかけになりました。
本は売れる内容でなければならないのか 「本を売りさばく」
3つ目は、本は売れなければ意味がないと、内容の質よりもとにかく売れる本だけを大量に出版する人物に出会う。
本は売れさえすればどんな内容でもいい。
むしろ、売れない本はこの世に存在する意味がない。
結局ビジネスなのだから、売れなければダメなのだ。
このエピソードでは、出版されている本を「買う立場」だけでなく「売る立場」に立って考えるきっかけになりました。
普段、私は本を買う立場なので、手にとって気に入った本を読んで、楽しめればそれでいいという感覚です。
しかし、自分が本を書く立場、売る立場になると、書きたいことや伝えたいことを書くだけではダメなのかもしれません。
出版社はビジネスをしています。
私が書きたいだけの本だったとしたら、出版社は頷けませんよね。
著者が書きたいこと・伝えたいことでありながら、ちゃんとビジネスとして成立する「売れる本」であることが条件になる。
これは基本概念であり、必要なことなのですね。
ただ、「売れる本であればなんでも良い」というのは間違えていますし、「本は売れなければ意味がない」というのも間違えていると思います。
まず「売れる本であればなんでも良い」について。
本を買う側としては、その本が売れるかどうかは関係なく、自分に必要な情報が入っているか・その本が楽しめるかという点が重要です。
つまり、その本を読みたいかどうかということなのです。
より多くの人に売れる本を書こうとして、ちょっと大げさな内容にしたり、嘘や偽りが描かれている本は、売れたとしても読者を満足させることができませんよね。
また「本は売れなければ意味がない」について。
確かに売れる本であった方がいいのは間違いないのですが、あまり部数が伸びなかった本であっても「誰かにとっては心に響く本であった」かもしれません。
多くの人に売れなくても、誰か一人でも感動できる本だったとすれば、その本には「存在する価値がある」のだと思います。
つまり、「本は売れなければ意味がない」ではなく「本は売れた方がより良い」というイメージですね。
あなたにとって「本」とはなんだろうか
最後のエピソードでは、「あなたにとって本当は何なのか」について考えることになります。
これまでの内容でも、本がどういうものか、少しずつ考える内容だったのですが、最後のまとめのようなお話になります。
これについては、「本を守ろうとする猫の話」を読み終わっても答えが出なかったのですが、なかなか答えが出てくるものでもないのかもしれません。
この先もずっと読書を楽しんでいくつもりですが、その中で何か答えが見出せるかも?しれませんね。
今でも十分楽しめる趣味として位置付けているので、それだけでも十分ですね。
終わりに
とても読みやすい文章で書かれている本で、スムーズに読了できました。
小説としての物語も楽しめましたが、何より「自分と本」という重要テーマを考えるきっかけにもなりました。
あー、自分は本のことをこんな風に考えているんだな。と再確認、再発見できましたね。
本はたくさん読んだということを形に残す(本を保存する)ことが良いのか。
本はすぐに読み終われるほど簡潔で、時間をかけずに読み切ることが良いのか。
本は内容はどうあれ売れる物でなければ意味はないのか。
そして、本とはあなたにとってどういうものなのか。
物語を通して、これだけのメッセージ性を持った小説は久しぶりで、読み応えがありました。
読書好きに読んでほしい一冊です。
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