「コーヒーが冷めないうちに」
川口 俊和 著
喫茶店「フニクリフニクラ」は過去に戻れる不思議な場所。
喫茶店にあるルールに則り、わずかな時間ながら過去に戻ることができる。
そんな「過去に戻れる」という噂を聞きつけ、4人のある思いを抱えるお客さんが、過去に戻るべくフニクリフニクラを訪れる。
それぞれの思いと、過去に戻ってまでやりたいこととは・・・
お願いします、あの日に戻らせてください――。
過去に戻れる喫茶店で起こった、心温まる4つの奇跡。【「4回泣ける」と評判!】
とある街の、とある喫茶店の
とある座席には不思議な都市伝説があった
その席に座ると、望んだとおりの時間に戻れるというただし、そこにはめんどくさい……
非常にめんどくさいルールがあった
(Amazonの商品紹介ページより引用しています)
フニクリフニクラの過去に戻るための5つのルール
1. 過去に戻っても、フニクリフニクラを訪れたことのない人には会えない
2. 過去に戻ってどんな行動を起こしても、現在を変えることはできない
3. 過去に戻るには指定された椅子に座らなければなないが、その席には常に先約がいる
4. 過去に戻れるのは、コーヒーをカップに注いでから、そのコーヒーが冷めるまでに間だけ
5. 過去に戻っても、その座席を移動することはできない
これだけでなく、もう少し細かいルールがあるのですが、本編では大まかにこのルールで実行されています。
ここまで細かいルールがあるのにもかかわらず、過去に戻りたい登場人物にはいろいろと思うところがあるのでしょう。
一つずつ、本編の内容を重ねながら解説します。
1つ目の、過去に戻ってもフニクリフニクラを訪れたことのない人には会えない、ですが、過去に戻った際は指定された席に座っていなければならず、フニクリフニクラから出ていくことができないのでこのルールが適用されます。
椅子から動けないので、店の中にいる人にしか会えないのは自然の摂理ですよね。
2つ目の過去に戻って何をしても現在を変えることができない、ですが、これが一番苦しいルールですね。
だって、せっかく過去に戻ることができるのなら、過去に残った後悔を塗り替えることができます。
過去だけでなく、未来にも行けることができるのですが、未来だと自分が向かった未来にたまたま会いたい人が居合わせていないと会うことができません。
だから、未来に行きたがる人よりも、圧倒的に過去に行きたがる人の方が多いのです。
自分が失敗したこと、やらなくて後悔したこと、選択を誤ったこと、どうしても叶わない未来に・・・
様々な思いを乗せて、フニクリフニクラにはお客さんが訪れます。
3つ目の椅子に先約がいる、ですが、実はその席にはずっと幽霊が座っています。
いつまでも小説を読み続ける先約は、1日に1度だけトイレに立つのですが、そのタイミングで席を奪い取る他に方法はありません。
無理やり椅子からどかそうとすると、呪われる。のだそうです。
4つ目の、過去に戻れるのはコーヒーをカップに注いでから、そのコーヒーが冷めるまで・・・ですが、コーヒーが冷めてしまうと自分が幽霊になってしまうのだそう。
コーヒーが冷めきるまでにすべて飲みほさなければならず、コーヒーを飲み干すと元の世界に戻るようになっています。
5つ目の、過去に戻ってもその座席を移動することはできない、ですが、椅子から移動したり腰を浮かせたりしてしまうと、元の世界に戻ってしまいます。
動き出したくなる気持ち、今にも椅子から立ち上がる気持ちもすべて押さえ込んで、椅子に座ったまま過去の時間を過ごす他ありません。
細かいルールを知ってもなお、過去に戻ろうとする4人のお客さん
「コーヒーが冷めないうちに」では、4人の登場人物が過去に戻ろうとフニクリフニクラを訪れます。
・ アメリカに行ってしまった彼に、本音を伝えたい女性
・ アルツハイマーの旦那からもらいそびれた手紙を受け取りたいと過去に戻る女性
・ 妹と死別したが、ちゃんと向き合いたいと過去に戻る女性
・ 自分の命と引き換えに、愛する旦那の子供を産むと決めたが、どうしても未来の娘に会いたくて未来に行った女性
どの登場人物も、すべて相手に対する愛と自分自身に残る後悔・・・そんな心温まる思いが伝わる素敵な物語です。
過去に戻れる or 未来に行ける ならどうしたい?
もしも、今現在、人生に対して大きな後悔があったとすれば、きっと「こうしたい」とすぐに何かが浮かぶのだと思います。
「こうしたい」と思う何かがないのだとしたら、今はまだそこまで大きな後悔が残らない人生を歩んでいると言えます。
私自身も、過去をゆっくり振り返ってみても、「いますぐどうしてもこうしたい」と思えるほどのエピソードがないので、今はまだ過去に戻りたいとは思いません。
フニクリフニクラでは、実は一生に一度しか過去か未来にいくことはできないという設定になっているので、もしも本当にフニクリフニクラがあったとしても今は利用しないでしょう。
どうしても一生心に残ってしまうほどの後悔ができた時に、ぜひとも利用したいものです。
今、この瞬間は、今後においてすべてが過去になる
過去と未来について考える機会があると、いつもこのことを考えます。
「今、この瞬間は、今後の人生においてすべてが過去になるのだ」ということです。
当たり前といえば当たり前なのですが、どうしても忙しい毎日を過ごしているとこのことを忘れてしまいがちです。
でもこれって本当に大切。
たとえば今、特に何も頑張っていないとか、未来から見ると後悔になるような行動しかしていないとしたら、それはいますぐに改めるべきです。
今は、未来から見たら過去になる。
この瞬間が後悔になりそうなのだとしたら、未来になってから過去に戻るより、今から未来を変えていくべきだと思うからです。
変えることができるのは、今この瞬間のみ。
今この瞬間を変えれば未来は変わる。
未来が変われば、過去に後悔が残らなくなる。
つまり、過去に後悔が残らなければ、過去に戻りたいと思わずに済む。
これが実行できれば、フニクリフニクラの時間移動は不要になりそうです。
「過去に戻れる、未来に行ける」としても、それを使わずとも後悔が残らないような人生を歩むことこそ、素晴らしいことだと思います。
終わりに
「コーヒーが冷めないうちに」は、2017年度本屋大賞にて第10位にノミネートされました。
本屋大賞に選ばれる前からこの本を読んでいた私にとって、「本当にいい本を選んだなー」と別の意味でも喜べました。
多くの人に共感されて、本屋大賞に選ばれた意味もうなずけます。
過去に戻れる、未来に行けるという設定は、小説の世界ではよくあるのですが、これだけ人の愛情が溢れる作品は久々に読んだような気がします。
本当にフニクリフニクラがあったらいいのになーなんて思う一冊です。
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