スマートフォンやタブレット端末の登場によって、書籍や雑誌、漫画などが電子化されるようになりました。電子化すると、紙を使わない所謂ペーパーレスになりますから、紙という大切な資源を節約し、紙にかかる費用も節約することができます。
こうした利点に注目が集まる中、文部科学省が新しい取り組みを発表しました。
それは、
「2020年を目標に、教科書類をタブレット端末一台にまとめ、完全デジタル教科書化を目指す」
というものです。
かなり革新的に見えるこの取り組みでは、数学の立体図形を文字通り立体的に学んだり、英語の発音をいつでも耳で聴ける環境が整うと注目されているようです。
確かに、これだけ電子化の技術が発展してきているのですから、これを学校教育に利用しない手はありません。現在でも、多くの企業でパソコンだけでなくタブレット端末を使用した仕事が進められています。子供の頃から出来る限りスマートデバイスに慣れておくことも、これからは必要なスキルになることは間違いありません。
電子機器の扱いに慣れていきながら、勉強もより便利に行えるようになる。これこそ、スマートデバイスを教育に取り入れる意味でもあるのでしょう。
しかし、これまでの教育を受けてきた人や、教育をする立場にあった人達は、色々な思いがあるでしょう。
すべて電子化してしまっていいのだろうか?
これまでのように紙の教科書を使いながら、大切なところにマーカーペンを引くこともできないよね・・・
プリントやノート、ルーズリーフに文字を書いてまとめていくこともできない
そもそも、手で文字を書くことすらなくなってしまうのは、勉強をする上で問題なのではないか・・・
こんな風に、いくらでも意見は出てくるものだと思います。そこでこのエントリでは、教科書のペーパーレスが与える影響を考察しながら、「完全デジタル教科書化」についても考察していこうと思います。
■ 教科書のペーパーレスが与える影響
「完全デジタル教科書化」が実現すると、どんな影響が考えられるのでしょうか。
影響があるのは大きく分けてみると、教育を受ける子供達、教育をする先生達、教育業界に関わる企業などでしょう。
これまで紙の教科書や問題集で教育をしていくことが当たり前だったのだから、新しいものが取り入れられることによって予想もしない変化が起こります。
ただ単に、便利になる、新しいことが可能になるというだけではありませんから。
・ 教育を受ける子供達が受ける影響
教育の変化によって、直接的に影響を受けるのはやはり「教育を受ける子供達」でしょう。
これまでなら、パソコンやタブレットを扱うことが得意でも苦手でも、勉強する上では全く問題がありませんでした。
しかし、「完全デジタル教科書化」が実施されると、パソコンやタブレットが苦手な人も、勉強をするなら必ず扱わなければならなくなりました。
パソコンやタブレットという電子機器が苦手な子も、勉強をしていく中で徐々に慣れていくチャンスだとは言えますが、苦手なシステムで勉強していくとことが「勉強を嫌いになる理由」になってしまうかもしれません。
現在のパソコンやタブレットも、十分使いやすくなってきていますが、これから教育の舞台で使っていくのなら、さらに便利で分かりやすいデバイスに進化させていく必要があるでしょう。
これからの電子デバイス業界に期待されるところですね。
デバイスだけでなく、手書きをする習慣が無くなってしまうというのも大きな影響でしょう。
勉強では、手で文章を書いて、問題を解いて、必要なところをまとめるというのがセオリーでした。
手で文字を書くことで、頭に入ってきやすくなるので、勉強の効率も高まります。また、自分で考えたことを文章に書くというのは、然るべき場面で必要なスキルです。
例えば、履歴書を書く時、誰かに手紙や年賀状を出す時、書類にサインする時など、必ず手書きをしなければならない場面がでてきます。
ですが、「完全デジタル教科書化」が実現すると、手書きをする機会が減少します。当然ながら、文字を書かなければ書かないほど、文字を書くことが苦手になります。丁寧に書いても、綺麗な「余所行きの字」を書くことができなくなってしまうかもしれません。
文字を書く機会が減る、ということは、想像以上に大きな問題になるのかもしれません。
その他にも、スマートフォンやタブレット、パソコンなどを長時間使用していると、「ドーパミンの分泌が過剰」になり、生活時間にも影響がでてくるのだそうです。もちろん、視力の低下も招きますし、頭の披露具合も変わってくるでしょう。
・ 教育をする先生達が受ける影響
「完全デジタル教科書化」で影響を受けるのが子供達だけだとイメージされやすいですが、実はそうでもありません。教育を受けさせる先生達もパソコンやタブレットを使って教育をしていかなければならなくなるのです。
今の中堅世代や段階の世代の中には、パソコンやタブレットを使うのが苦手な人達や、そもそもまったく使うことができない人達もいます。
それでも、「完全デジタル教科書化」が実践に移されると、使わざるを得なくなります。完全移行される前に、パソコンやタブレットの操作をマスターする必要性がでてきます。
これまでスムーズに教育を行ってきた「ノウハウを持った世代」さえも、新しいものにチャレンジして、教育方法を変えていくことが求められるのです。
考えてみると、ものすごく大変なことになるような気がします。ただでさえ、パソコンやタブレットを操作することが苦手なのに、それら電子デバイスを使って教育をしなければならないのです。教える側よりも、教えられる子供達のほうがタブレットなどを自由自在に使えるようになり、先生を越えてしまうことも度々あるのではないでしょうか。
「あの先生、全然タブレット使えないよね」
というような、子供達の反抗のようなものも考えられます。タブレット使えない先生に教えてもらいたくない、なんて反抗は、教育の場では困った事態です。
・ 教育業界に関わる企業などが受ける影響
もうひとつ、忘れてはならないのが、教育業界に関わる企業などが受ける影響です。
かなり多くの企業や団体が、教育に関連のある業務を日々遂行しています。ということは、これらの企業や団体も、「完全デジタル教科書化」を境に、新しい取り組みを実践していかなければならなくなります。
以下の企業や団体には、大きな影響が考えられます。
教科書、問題集を作成している出版業界
ランドセル業界
アプリケーション業界
タブレット業界
まずは教科書や問題集を作成している出版業界。これまで紙の教科書や問題集を作成していたとしても、「完全デジタル教科書化」になると、コンテンツをすべてデジタル化していかなければなりません。
ただこれまでのコンテンツをデジタル化するだけなら簡単かもしれませんが、デジタル化するに当たって「プログラミング言語」の習得や、図形や地図などの情報を「3D化する技術の構築と技術」、電子端末を使うからこそ音声による教育が可能になりますから「音声コンテンツの作成」などが求められるでしょう。
それだけでなく、生徒個人個人の能力や苦手な部分などを「問題の正答率などからデータベース化」することもできるようになるので、タブレットで教育を進めていくことによって「成績管理や勉強に関する個人データ」を一括管理することも可能になると考えられます。
そうなってくると、アプリケーション業界やタブレット業界は、さらに利便性に優れ、より多くの機能を有したアプリやタブレットを開発することが求められます。開発競争は激化するでしょうから、関連ベンチャーなども新規参入することが可能です。
これまでの仕事のやり方を大きく覆す、大きな流れが生まれることが今からでも目に見えるようです。
また、間接的な部分では、「ランドセル業界」にも影響が出ると考えられます。これまでのランドセルは、かるい安さや軽量化、デザイン性などにこだわりがあったように思えますが、収納力はすべてのランドセルが同等クラスで制作されてきました。
しかし、教科書や参考書、問題集が「完全デジタル化」でひとつのタブレットにまとめられると、ランドセルの収納力は今よりも少なくて済むようになるので、これまでの常識から大きく変化した形状のランドセルが市場に出ることになります。
もしかすると、タブレットで「完全デジタル教科書化」されると、ランドセルそのものがなくなってしまって、新しい鞄が開発されるのかもしれません。
そうなると、ランドセル業界としては大打撃ですよね。
このように、一口に「完全デジタル教科書化」と言っても、様々なところに影響が出て、企業や団体に対して大きな大きな変化を生むことになるでしょう。
■ 終わりに
いずれは、「完全デジタル教科書化」になるときが来るとは誰もが思っていたと思います。
電子化も進み、本や漫画が電子書籍として発売されるようになってきて、便利な時代になってきましたから。
しかし、これまで当たり前だったことが当たり前じゃなくなるということは、どこかに大きな変化が加わって、しわ寄せがきていることを示しています。
利点もあれば、問題点もあるということです。
「完全デジタル教科書化」は2020年を目標に実施されるとのことなので、これからどのような変化が訪れてくるのか、目が離せないところでもあります。
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