スターティング・オーヴァー

 

 

【 年間120冊読書計画 39冊目】

 
 

「スターティング・オーヴァー
 
 
 三秋 縋 著作 読了。
 
 

スターティング・オーヴァー (メディアワークス文庫)

 
 
 
スターティング・オーヴァーでは、SF小説でたまに見かける「タイムスリップ」という設定が描かれています。
 
ただにタイムスリップでもなければ、何度も繰り返すループ物でもありません。
 
 
20歳になったとき、10年さかのぼって10歳になってしまう。
 
しかも、20歳になったときの記憶を維持したまま。
 
 
記憶を維持したままのタイムスリップによって、主人公にはあらゆる選択が可能になるわけですが、スターティング・オーヴァーでは面白い展開になっていきます。
 
 
 
 
■■
 
 
20歳になったある時、急に記憶を維持したまま「10歳のクリスマス」にタイムスリップした主人公が、それからまた人生を歩み直す物語。
 
「1周目」の人生では、友人に慕われ、理想の恋人と過ごし、外見や立場にも恵まれて幸せな人生を送っていたという記憶が残っていた。
 
「2週目」でも「1周目の忠実な再現」を目指そうと心に決め、覚えているところはとにかく記憶のままに再現していく。
 
 
「1周目」の記憶を利用して神童になったり、大きな成功を収めたりしようとはしなかった。
 
ただ「1周目」の人生を再び手に入れようと試みる。
 
しかし、記憶を維持したまま幼い時を過ごすことは難しく、徐々に歯車がくるっていき、「1周目」とはかけはなれた人生を送ることとなる。
 
「2周目」では、慕われていたはずの友人に嫌われた挙句、いじめにあい、恋人だった人には振られ、何もかもが「真逆」の結果に落ちていってしまう・・・
 
 
 
■■
 
 
 
 

■  スターティング・オーヴァーの魅力は、主人公目線のリアルな心情

 
 
 
常に主人公の立場(1人称視点)で描かれた作品で、主人公の心の動きが伝わってくる作品。
 
 
登場人物の会話部分よりも、主人公の体験を解説するような語りの部分が多く、物語をナレーターが語りながら、一部は再現シーンとして会話が挿入されるような流れで書かれています。
 
 
めずらしい書き方で、こういう小説もおもしろいな、と新しい発見でした。
 
 
小説でよくある書き方としては、主人公はいるものの、場面毎に視点が変わりながら表現されること。
 
ある場面は主人公目線、またある場面ではヒロイン目線、ライバル目線と、変化しながら書かれます。
 
目線が常に変わりながら書かれている作品では、主人公だけでなく、登場人物の気持ちや考え、セリフにならない心の動きがわかります。
 
いろいろなキャラクター同士の関わりがよくわかる作品では、このような書き方が目立ちます。
 
 
対して、スターティング・オーヴァーは主人公目線にとことん絞って書かれています。
 
だからこそ、作品を通して主人公が成長していく過程や心情を追っていくことができますし、自分が主人公になったかのように感情を移して読み続けられるのも魅力です。
 
まさに、感情移入しやすい作品となる。
 
すべてがスターティング・オーヴァーの様な主人公メインの作品であるべきだとは思いませんが、深く気持ちが入り込める作品として、必要なのだと思います。
 
 
 
 
 
 
 

■ 記憶を残して10年前に戻れたらどうする?

 
 
 
 
 
スターティング・オーヴァーの最大の面白さは、 
 
 
「記憶を残して10年前に戻る」
 
 
という驚きの設定にあります。
 
 
記憶を残したまま10年も遡れば、本当に色々なことが可能になりますよね。
 
 
 
例えば、
 
 
告白出来なかった人に告白できる
しかも、相手の好みとか嫌いなタイプとかを知った上で。
 
病気や事故を防止できる( 自分も他人も)
 
将来起こる出来事を既に知っていることで、有名人になれる。
 
 
こんな事が可能です。
 
どれにも言えることですが、自分の人生を1回目の人生よりも、より良い人生に変えていくことができるのです。
 
10年先までおおよそのことがわかっているだけで、人生を変える力を手に入れたようなもの。
 
言い方を変えれば、先がわかっている分、あまり面白くないのかもしれませんが。
 
 
 
また、10歳も歳が若くなったのに、知識は10年後の自分が手にしていたものと同じ状態であれば、その歳では天才になれます。
 
20歳が10歳になったとすれば、大学2~3年生が小学4~5年生になるということですから、まさに「神童」「天才」といった人物にすらなることができます。
 
 
そのような「何にでもなれる」という状態なのに、スターティング・オーヴァーの主人公は「人生の忠実な再現」を目指すあたりが、面白さにつながっているのかもしれません。
 
 
 
 
 
 
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